復刻版「怪談人間時計・猫の喪服」/徳南晴一郎 太田出版

なんとも恐ろしい漫画である。
「物語が」ではない。
「造形が」と言うか、「線が」、いや線として表現されている「黒き闇」が毒を放っています。

作者は、本書の復刻を一切拒否したらしいです。
再三の要請に「勝手にしろ。ただし印税の受け取りは断る。」という承諾(?)を受け、幻の作品は僕らの前に姿を現しました。

生みの親から「忌むべき存在」とされた「この本」。

げに、おぞましきやうなり。
(1997年3月感想文より)

平気でうそをつく人たちー虚偽と邪悪の心理学ー/M・スコット・ペック 草想社

このごろ「問題ある人物」を取り上げて論ずるというよりも、「その人の周りの
人々」にその「問題の本質」を見る傾向が増えています。

人は、一人で生きているんじゃない。
「人間」という文字の様に、「人と人の間(関係)」が大事なんだとする金八先生説
が、市民権を得たようです。

問題責任が、自分にあるのではない(!)と言われているようで、「自分の荷」を他人に預けたような気になってホッとした反面、「他人の荷」を押し付けられた様でもあり、釈然としない気にもなってきます。

この本で語られていることは、人間の悪の部分も同様に、「人間関係」の中で生み出されているということのようです。
しかも、作者は意識していないのでしょうが、それら人間関係の中に、「医者」も含まれているということが、文章の中に垣間見えます。

・・・・問題とされて、従えてこられた少年の母親の天使の様な顔を見て、「あ〜ぁ、あんたには一言もしゃべる気がないよ。次の患者までの20分間どう過ごそうかな」・・・・

などの感想が書かれているのです。

こんな箇所など読むと、
「そうだな、医者や先生、親だって感情の固まりだよな。」
と思うと同時に、
「そんな風に、自己感情の疑念も感じずに、自分を無条件肯定している「医者」や
「先生」なんかに、視てもらいたかねえよ!」
って強く思います。
(1997年3月感想文より)

〈異世界・同時代〉乱反射ー日本イデオロギー批判のために/太田昌国 現在企画室

いわゆる政治・情況論文集です。

なぜ私は、この手の論文などを読むのだろう。
勿論、今を知りたい、将来の水脈を確認したいという欲求が、大きな動機であることは、間違いありません。
また、自分の考えている情況判断を検証したいという気もあります。

しかし傲慢にも、大概は「あ〜あ」という感じで、たまに「おっ!」と読んでも、ブツブツとダメだダメだと独り言を、呟き始めるのがオチです。
たまに、自分の中で漠然と捕らえていた問題の重点を言語化している論文に出会う
と、とても嬉しいです。
なんと言っても「自分の考えの弱点」が、よく見えてくるからです。

この本の共感する部分の多さと、ノーと声高に叫びたくなる部分の落差は、大変「有益」でした。
(2007年9月)