わたしのいもうと/松谷みよ子・文/味戸ケイコ・絵 偕成社
夕ごはんまでの五分間/プロハースコヴァー・作/ポコルニー・絵 偕成社

相変わらず絵本・児童書の猟渉を続けているのですが、今月はとっておきの名作に出会えました。

『わたしのいもうと』は、図書館で立ち読みして、震える心のまま借りてきてしまいました。
帰って子どもに薦めると、なんと二人とも読んでいると言うのです。
聞くと学校で「いじめ」の問題の時に、みんなで読んだとのことです。
是非親御さんが借りてきて、子どもの横で読んで下さい。
それについて特別に話をしないでいいですから、この本を読んでいるという共通理解を、親と子がともに持っていて欲しいです。

『夕ごはんまでの五分間』は、「血縁を越えた家族」と「障害」というテーマを同時に扱っていながら、優しい気持ちを我々に運んでくれます。
考えなくてはいけない問題は確かにあるでしょうが、人と人の出会いの基本は、お互いに他者の存在をそのまま認めて、一緒に生きてゆくと言う事なんですね。
そのことに気付かせてもらえると言う意味では、「血縁」も「障害」も問題であるどころか、貴重な「贈り物」そのものだったのです。
どの家族もどんな人間関係も、そこに「問題」が横たわっているのではなく、「気付かせてもらえる」玉手箱が用意されているのだと思います。
ありがたいことです。

久しぶりに驚きと感動を与えられた、2冊でした。

君の手がささやいている全10巻/軽部潤子 講談社
新・君の手がささやいている全13巻/軽部潤子 講談社
君の手がささやいている最終章全3巻/軽部潤子 講談社

わたしは漫画も好きで、毎月かなりの本を読み飛ばしています。
子どもと取り合うようにして読む本もあるし、周りが寝静まった後に涙腺を緩ませながら一人読む本もありますが、総体としてこの頃の漫画はただ多様化しているだけではなく、優れた作品も多いと思います。

聾唖の彼女と彼女の子どもを中心に、結婚の問題そして出産、家族として個人として回りの人達とともに生きてゆくとは?と、具体的な事柄にきちんと向き合って描かれています。
『遥かなる甲子園』『どんぐりの家』などの作品で知られる山本おさむさんの本は、わたしは好きでよく読んでいるのですが、山本さんの本が総論だとすると、彼女の作品は各論にあたるかもしれません。

障害者の問題には総論ばかりが目の前に展開させられて、自分なりに考えようと思う前に重たい気持ちに支配されることが多いです。
しかし、よく考えてみると障害者の問題は、何々の障害を持っているだれだれのことではなく。
「三原徳久」などと言う具体的に名前をもった、目の前の人間との関係であり、自分が生きてゆく問題なのです。

この本は、深く考えさせられることや初めて気付かされる事が日常の中で描かれていて、長期の宿題を出された感じですが、重くならずに彼女の笑顔とともに語られる言葉には救われます。
日頃使っている普通の言葉で障害の問題を語れることが、可能であることを示してくれた優れた書物です。
(2004年9月)